漢方とは?
2014/09/24
私たちの身近にある「漢方」
私たちは生活の様々な場面で漢方と触れ合っています。薬局で漢方薬を買ったり、生薬の効果のある食材を普段の食事で食べたりしています。
また、日本の医師は最先端の医療である西洋医学を提供しながら、伝統医学である漢方薬も処方できます。2011年の日本漢方生薬製剤協会による医師のアンケート調査の結果によると、医師の89%が日常的に漢方薬を処方していることがわかりました。日本では、最先端の医療を提供しながら漢方薬を使用するという、西洋医学と伝統医学の融合された新しい医療が創生されています。
このように私たちの身近にあるある漢方とは、どのように日本に根付き、現在どのような可能性や問題に直面しているのでしょうか。
出所: | 日本漢方生薬製剤協会「漢方薬処方実態調査(定量)」2011年より一般社団法人漢方産業化推進研究会作成 |
そもそも漢方とは
漢方医学とは、中国から伝わってきた伝統医学が日本で独自に発達したものです。
中国起源の伝統医学は、日本や韓国に渡り、漢方医学と韓医学としてそれぞれ独自に発達していきました。漢方医学、中医学、韓医学それぞれ原点は同じですが、診断方法や処方の考え方など医学体系が異なります。
漢方の歴史
漢方の歴史は、5世紀のはじめ、朝鮮半島を経由して中国医学が日本に伝わったことが始まりと言われます。
7世紀はじめには聖徳太子の遣隋使、遣唐使により中国から医学が直接導入されましたようです。その後、756年聖武天皇が没し、その供養として奈良に正倉院が建設され、多くの薬物が供えられたと記されています。
さらに、室町時代に入ると貴族等の一部の限られた人のための医療から、広く大衆の医療として変化していきました。江戸時代になると鎖国政策がしかれ、中国との交流が断絶されました。そのため、漢方医学は、中国医学に日本の気候風土、民族性が取り入れられ日本人に適した医療として、日本国内で独自に発展しました。
江戸時代の後期になるとオランダの医学が蘭方医学として日本に伝来しました。この時に、蘭方医学と区別するために、日本の伝統医学として「漢方」と呼ぶようになったのです。
この頃には、漢方医学と蘭方医学の両方を取り入れられた折衷医学が発達し、両方の医学を学んだ医師が多く輩出されました。
しかし、明治時代になると富国強兵策が導入され、明治政府により西洋医学が重視されるようになります。1895年、医師になるための資格試験の内容は西洋医学とする法案が国会で可決され、日本における漢方医学は消失の危機に瀕したのです。
その後、明治43年(1910)に漢方医学者の和田啓十郎が「医学之鉄椎」を刊行し、漢方の素晴らしさを訴えました。さらに昭和2年(1927)には、野本求真が「皇漢医学」を刊行し、漢方医学の優れている点を体系的に明らかにし、昭和の漢方医学の復興と存続に大きく貢献しました。これらの著述がきっかけとなり、漢方医学は再び注目を集め、復興の道を歩み始めたのです。
現在の漢方薬の課題
現在、多くの人が漢方薬に親しんでいますが、意外と知られていないのは、漢方薬が輸入依存型の薬であり、自給率が非常に低いということです。漢方薬の原料である生薬の80%以上が、中国からの輸入となっており、日本国内の生産はわずか12%程度となっています。
以前は、日本国内においても多くの栽培農家がいましたが、生産者の高齢化等もあり減少傾向を示しており、それに伴い生産量も減ってきています。
現在、中国国内においても需要が高まっていると言われており、すでにいくつかの生薬について輸出制限※がかかっています。
漢方薬を今後も継続的に使用できるようにするためには、生薬の安定的な供給を構築することが非常に重要になってくると考えられます。
(※)出所:渡辺賢治『日本人が知らない漢方の力』祥伝社新書 2012年
出所: | 日本漢方生薬製剤協会生薬委員会「原料生薬使用量等調査報告書-平成20 年度の使用量-」平成23 年7 月15 日より一般社団法人漢方産業化推進研究会作成 |
出所: | 日本特産農産物協会 特産農産物に関する生産情報調査結果(平成25年産12月調査)より 一般社団法人漢方産業化推進研究会作成 |
漢方薬は、自然のものでできている
2014/09/25
漢方薬は、自然のものでできている
漢方薬とは自然界にある植物や鉱物、動物などからできている生薬(しょうやく)を複数種類組み合わせたものを指します。
どの生薬をどのくらい組み合わせるとどういった効果が得られるか、どのような毒性が作用するかは長い年月をかけておこなわれた治療によって確かめられ、漢方処方として作り上げられました。
現在では、健康保険が適用される医療用漢方製剤として、148処方が薬価収載され、医療機関から処方されるようになっています。
~漢方薬は変化する~
漢方薬は複数の生薬が組み合わされて薬効を発揮します。この生薬の配合率を変えることで様々な薬効へと変化していきます。
例えば、「桂枝湯」と「桂枝加芍薬湯」のケースでみると、2つの漢方には、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク) 、生姜(ショウキョウ) 、大棗(タイソウ) 、甘草(カンゾウ) の5種類のまったく同じ生薬でできています。しかし風邪の初期症状に処方される「桂枝湯」の芍薬を2倍の量に増やすと「桂枝加芍薬湯」というお腹の薬へと変化するのです。
さらに、「桂枝加芍薬湯」に膠飴(水飴)が加わると「小建中湯」という主に小児の虚弱体質の改善薬になります。
生薬とはこういうもの
生薬とは、動物、植物、鉱物を、薬として利用するために加工を施したものです。その加工の目的は、主には保存であったり運搬のためであったり、または薬効の調整のためなどさまざまです。
植物では、草木によって生薬として使われる部分が異なり、根、葉、樹皮、種子、樹木などが使われます。鉱物では、炭酸カルシウムが含まれる石膏などがあり、動物では、蝉退(ぜんたい)といった蝉の抜け殻や、牡蠣(ぼれい)といったカキの貝殻などが使われます。